ブルームーンな夜
しばらくぶりに逢う恋人ニ人が、空を見上げて言った。
「今夜はすてきなブルームーンだね。まるできみのように綺麗だ」
「そんな適当なこと言って。でも本当に大きくて、青く輝いてるわね」
それはまるで、夜空に浮かぶサファイヤだった。
彼らの心を洗い流してくれそうなほどに美しい。
「知ってる? その昔、月はもっと小さく黄色かったらしいよ?」
「えー、またそんな適当なこと言ってーー」
「ちょっと待って。これは本当のことなんだって」
「これはってことは、つまり私が綺麗だってのは、やっぱり適当だったのね。」
「ち、違うよ! 僕は本当にきみのことを綺麗だってーー」
「うふふ、そんなのわかってるわよ」
「まったく、きみはいじわるだな」
二人は顔を見合わせると、幸せそうに笑う。
そしてふたたび、夜空を見上げた。
「こうしてあなたと一緒にいられて、私は本当にしあわせよ」
「僕もだよ。こうして生きていられること、ご先祖様に感謝しないとね」
「そうね。百年前、移住を決断したご先祖様にね」
「しかし皮肉だな。汚染によって絶滅した星が、あんなにも綺麗だなんて!」
男はひとつ、ため息をついた。
今二人が立っている大地は、人類が移住した、月。
そして二人が見上げた青い月は、滅んだガイア(地球)だった。
「ねえ、感傷にひたってるところ悪いんだけど」
「何?」
「もしかして、遠回しに私の心が汚いって言ってる?」
「ーーーーー」