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介護日記・施設拡大中

介護日記・施設拡大中 投稿私小説

The縄文

(※この物語は全てフィクションです)

A.C.2117.11.1 ガイア(地球)

「Happy birthday Hiroki ! 」 徹夜明けで、朦朧とした意識にジュリアの声が響く。 「おはようジュリア。覚えていてくれたんだね、ありがとう。!!」 広紀とジュリアは恋人同士で、大学院の助手と学生。研究室でジュリアと逢うのは、至福のひと時だった。 北東大学は、日本考古学会の最高峰に位置付けられ、縄文研究の膨大な資料を保管している。 広紀は優秀さが認められ、その考古学研究室に勤務していた。 この100年の間に、古代史の常識は大きく塗り替わっていた。約2万年~1万年前に高度な文明が栄えていたことも定説となっている。 これも「神々の指紋」などが指摘した、世界のオーパーツ研究成果であった。 縄文時代は高度な文明を構築していたが、環境変動に伴い縄文人はほぼ全滅し、新たに弥生人が日本の歴史を作っていく。 広紀のゼミ「The縄文 講座」に、ジュリアは必ず出席する。 恋人と同じ空間を共有したいという乙女心からだが、その独創的な分析と推測による大胆な理論に、とても魅かれていたからだった。

B.C.12123.12.1(約1万4千年前) ジョウモン歴 百二十四年十四月一日 晴 移民惑星ジョウモン

雨季に入ってからはずっとこの天気だ。 湿度のあるじっとりした空気が体中にまとわりつく。 天を仰いでいたタケルは、ゆっくりと今から突入しようとするアマテラス教団の敷地前に立ちはだかる大きな門に眼を下ろし、睨みつけた。 集中しなければならない。 高度な遺伝子操作により、新たな神となる少女を育てているアマテラス教団。 武装した教団の危険性を考えれば、今からの突入で命を落とす可能性もある。 タケルは防護服の上から左腕をつかみ、握り締めた。 しばらく鳴っていた電子カッターの音が途切れて、大きな金属音が鳴り響く。 大きな門が両側に開ききると、タケルは腕を振り下ろす。 そしてそれを合図に防護服を着込んだ攻撃部隊は一斉に敷地へとなだれ込んだーー。 産まれる前の遺伝子操作は公的保険によって惑星全域で無料に行われている。 人類が誕生した惑星ガイアより、磁力の影響が大きいジョウモンという移民惑星においては、遺伝子操作による細胞強化と基礎代謝活性化が生きていく上で重要な意味を持つ。 なだれ込む攻撃部隊に続きながら、タケルはいつもの様に祈った。 「天よ、私に力を」

ジョウモン暦 百十年十三月三十一日 晴れ

今年もあとわずかとなった。 ヤヨイ遺伝子治療を受けなくても、従来の精子卵子への遺伝子操作のみで我が星の環境に人間の体がなんとか適応できることが、はからずともこの問題の解決に対する動きの鈍さに繋がったといえるだろう。 しかし我が星とて従来の人間の体にとっては過酷な環境には違いない。 我々は惑星ガイアで育まれた人間の体の形、その再定義へと向かわねばならないだろう。 一方で惑星ガイアにある縄文政府がガイアへの惑星航行を規制する法案を可決していた。 理由は遺伝子汚染を防ぐ為だとか。 その法案の影には惑星ガイアに住む従来の人間達が抱く、ヤヨイ遺伝子治療を受けた者の身体能力への恐怖が見て取れる。 惑星ガイアでは未だに遺伝子操作に反対する者の方が多い。 そういう者達の多くは何千年も前の人間が言った、天地創造神話。遺伝子操作による人類滅亡の予言を未だに信じている。 馬鹿げたはなしだ。 ガイアという星では暮らしていけない程の寒冷化、だからこその惑星移住ではなかったのか。 そして惑星移住し、移民惑星の環境に適応する為の遺伝子治療だというのに。 ガイアの連中は未だに他の移民惑星がガイアと同じ環境条件であると思っているらしい。 だが、惑星政府が遺伝子治療の開発に成功したのもガイアの医療企業が内密に参加したおかげだ。 そして彼らは莫大な報酬を移民政府から受け取った。 その威力を持ってガイアの医療企業は、移民政府に、ガイア救済の圧力を加えていた。

ジョウモン暦 二百十四年十四月二日 移民惑星ジョウモン

戦闘は2日目を迎えていた。 タケルは着ている防護服をその場に脱ぎ捨てて、もう一度隙間に手を入れた。 少女はしっかりとその手を握り締めた。 タケルは全身の力を込めて、少女を引き上げた。 「大丈夫か?」 タケルは少女の肩を力強く握ると問いかけた。 少女はその目をじっと見つめ、そして頷いた。 タケルは少女の頭を撫でて微笑むと、彼女を背中に背負って走り始めた。 直後にすさまじい轟音が鳴り始め、タケルの駆けていく後ろから本格的な地下シェルターの崩落が始まる。 ガイア環境は、日々悪化していた。 ジョウモン政府はガイア医療企業からの再三の依頼にやっと重い腰を上げる。 氷河期化する環境に耐えられるヤヨイ遺伝子を実証する名目、いわば追い出す形で用済みのタケルをガイアへ派遣することにした。 責任感の強いタケルは、アマテラス教団の残党を弱体化させる為、オオミカミとなる少女も連れて行くこととする。 死の底にある祖国ガイア。 「救う為には自分が立ち上がらねば!」 タケルはそう思う。 北半球に人類文明が発達したが、そこは地軸変動により氷河に覆われようとしている。 寒冷化の影響を免れた南半球では、オゾン層が未発達で人類生存の条件を満たしていなかった。 人類が生き残れる場所は限られていた。 まさに、東北地方で栄えた縄文式高度文明は滅亡の危機である。

B.C.12124.10.1(1万4千年前) ガイア 縄文 東北地方

巨大宇宙母艦が人びとを乗せて、移民惑星ジョウモンへ出航しようとしていた。 外気温はメーターの最低値、氷点下50度を示し、計器は全てその機能を果たせなくなっている。 「フゥ~、寒い。皆んな出発だーー。遅れたら置いて行くぞ」 最後の宇宙母艦を見上げながら、村の長であるイザナギは声を張り上げた。 ツクシの地にはまだ水があり、植物も枯れずに残っているとのこと。 イザナギと1,000人余りの残された人々は、一縷の望みを繋ぎ1千キロの旅を始めた。 日本列島でも、高度文明化されているのは東北地方の一部のみ。10キロいくと高木に覆われた未開の地。 氷と化した岩、川が人々の歩みを阻んだ。 彼らを追いかけるように凍結した空気が、呼吸を塞ごうとしていた。 約一カ月かけて、ツクシの地にたどり着くことができた。村人は百人余りに減っていた。 「もはや、これまでか。皆々、よくついてきてくれた。食糧は尽き、体力は限界を迎えた。我は此処に死する。力ある者は、後を繋ぎ歩みを続けてくれ。」 イザナギはその地に突っ伏し再び起き上がることはなかった。

B.C.12125.11.10 ガイア 縄文

タケルと少女は、縄文の地に降り立つ。 母なる祖国は、見渡す限り凍りついた世界と成っていた。 「こ、これは」 タケルは変わり果てた祖国を見て言葉を失った。 「まだ残された人々はいます。 この目に見えます。さあ探しに行きましょう」 今まで、言葉を発することがなかった少女の口から、突然言葉が漏れた。 少女に誘われるまま、南を目指し移動を続ける。 人びとが、躓きながらまさに死者の行進のようになりながら歩いている。 宇宙船を降り、彼等の行く手を塞いだ。 「病み疲れし民に幸あれ!」 少女の声に人々は立ち止まり、一瞬気をとり直したかに見えた。 しかし、しばらくして、また重たい足を引きずりながら歩み始めた。 「足が、足の痛みがとれた。歩けるよ!」 父親らしき人に背負われていた男の子が、飛び降りて叫んだ。 縄文では忌み嫌う言葉を発すると、それが現実となるという『言霊』(ことだま)思想がある。 「少女が発する言葉は、言霊の力を持っているのではないか? もしかすると、本当に少女は神として祖国を救えるのでは? 」 「わたくしも、聴こえなかった右の耳が聞こえます」 イザナギの娘として幼い時から大切に育てられた美しい娘。 「名はなんと言う?」 タケルはその美しさに思わず尋ねた。 「オトタチバナヒメと申します」 娘は美しい顔立ちに備わった、透き通る瞳でタケルを見上げた。 夕闇迫るツクシの草むらに、ヒメとタケルの影が長く尾を引いて続いている。 「今夜はこの辺りで宿を設けることとしよう」 残された者で、一番の年輩者がシートを敷きはじめる。 「やっと寒さに震えること無く朝を迎えられそうだ」 夕食として獲った野ウサギを焼くため、まき床作りが始まった。 ヒメは少しためらいながらタケルの側に座り、移民惑星ジョウモンの話しを夢中になってきいていた。 ふたりには、微かな思いが芽生え始めていた。

A.C.2117.11.18 ガイア(地球)

「広紀、昨日の講義とても素晴らしかったわ!特に、弥生人宇宙旅行をしてたなんて」 「実は未だ公開情報じゃないけどね。先月、仙台市にある祠から、岩に刻まれたヒエログリフを発見したんだ。 そのヒエログリフの中に明らかに、宇宙服を着た人間と思われる絵があった。 オーパーツは月や火星でも発見されているから。 考古学も、今や宇宙考古学となっているんだよ! 若しかしたら人類は新たな世界を求めて、宇宙に旅立っていたのじゃないかって。ふと、思ったんだ」 「想像なのね!広紀さん1日遅れたけど、誕生祝いにお食事でもごちそうするわ」 ジュリアは、爽やかな顔で微笑んだ。