介護日記・施設拡大中

介護日記・施設拡大中 投稿私小説

ガンちゃんの冒険

俺の名前は『ガーフィールド』。 「可愛いガンちゃん」 人間は気安く、そう呼ぶ。 「なれなれしいんだよ。俺を誰だと思ってんだーー」 ガーフィールドと言うのは猫が主人公の有名な映画に由来する。 なんとも誇らしい名前だ。 俺について少し説明すると、毛色は白黒茶が混じったカラフル・ライン。 人間のいう血統書から言うと、ミックス種。 映画のガーフィールドとはちょっと外見は異なるらしい。 雄猫でマンション8階で飼われている、列記とした家ネコ。 実は、俺は1万回生きていて『1万回生きたねこ』と呼ぶのが正しい。 今度でちょうど、縁起の良い1万回目にあたる。 日本で昭和という時代の時、飼い主さんに略歴を自慢した。 俺の事が童話になったようだ。 本は読んでないけど『100万回生きたねこ』という題名で、不朽の名作として何回も映画になったらしい。 俺にも印税分けていいんじゃない。サバ缶でいいけど

1万4千年前。 俺の最初の飼い主は、縄文時代の村おさだった。 いつも飲み水が少なく、その年も雨が降らなくて俺は干からびてしまった。 「もっと雨ごいをすればよかった」 村おさは俺のなきがらを抱えて一晩中泣いた。 お葬式には大勢の人が集まり、悲しんでくれた。 「今度生まれる時は幸せになってね」 一人の少女が祈ってくれた。 俺は少女の言霊(ことだま)の力で甦りが出来るようになった。 ある時、俺の飼い主はエジプトの王様だった。 俺はこの王様が大嫌いだった。 王様は国中から何万という国民を集め、ピラミッド建設をさせていた。 ちょうど王様の視察に連れていかれた俺は、誤ってピラミッドの石に押しつぶされてしまった。 「こんなことなら、視察に連れてこなければよかった」 王様は平たくなった俺の死骸を金の棺に入れて、泣き続けた。 国民は俺の死を悲しんで、しばらく仕事が出来ないほどだった。 失意の王様はピラミッド建設を止めて、国民を地方の家に帰してあげた。 それから長い年月が過ぎ、俺は豪華客船に乗る大富豪の飼い猫だった。 俺は傲慢な飼い主が嫌いだった。 ある時俺の第六感に、危険を知らせるメッセージが届いた。 俺は泳げなかったので、船が沈没して溺れて死んでしまった。 「豪華客船なんか乗せるんじゃなかった」 救命ボートで助かった大富豪は、海水でふやけた俺の死骸をミンクのコートに包み三日三晩泣いた。 家にたどり着いて、俺は立派なお墓に埋葬された。 その年は、バブルと言って人間にはとても良い年だった。 俺の飼い主も、不動産で儲かっていたらしい。 テーブルにはいつもグラスに注がれたブランデーがあった。 俺は度々そのブランデーを舐めた。 アル中になった俺は肝硬変で死んでしまった。 飼い主は俺の亡骸を見つめ泣いた。 「もうアルコールを飲むのはやめる」 悲しみの余り、家中のアルコールをみんな燃えないゴミに捨ててしまった。 ある時、俺は小さな公園の捨て猫だった。 そこには、先客の捨てネコが3匹がいて、俺より大きな猫で兄弟らしかった。 いつもは排水溝に隠れていたけど、近所の人が餌をくれるときだけエサ場に集まって来た。 持て余す位の量なのに、この3匹は意地悪で、俺が近づくとフアーと威嚇してきた。 「3対1じゃ負けるかもしれない」 危険を感じた俺は、食べ終わったのも見計らって、おこぼれにあずかった。 数日して浮浪者風な人が公園に居つくようになった。 浮浪者風の人は日中は暑い中、俺たち子猫と遊んでくれた。 優しい人で、3匹の兄弟猫が旅行バッグで爪磨ぎしても怒ることもなく、好きにさせていた。 ひとりぼっちなのを可哀想に思ったのだろう、 特に俺を可愛がってくれた。 翌月になると、俺と3匹の兄弟は引取先が見つかった。 浮浪者風の人も近所の親切な人が実家に電話して、旅費を送って貰った。 俺を引き取ってくれた奥さんが、ゆで卵とバナナ、途中の食事代の足しにお金を渡していた。 3匹の兄弟は、同じ飼い主に引き取ってもらった。 最初の夏、1階までセミ捕りに行って戻ってこれなくなったことがあって、その時は家族一同で俺を探してくれた。 その年の冬にも階段を下りた後、戻ろうとしたが階を間違えて、6階の網戸に引っかかって身動きが取れなくなった。 それ以来、防衛本能が働いて俺は下の階に降りることができなくなった。 玄関から5m以内をグルグル回った。 ある朝、飼い主の奥さんがいつものように玄関を開けてくれた。 5階に住む白猫は階を間違ったらしく、2つ先の玄関でうずくまっていた。 俺は白猫に恋をした。 声を掛けようか迷っているところ、飼い主の奥さんがフロントに電話したらしく管理人のおばさんに連れていかれた。 年が変わる頃、飼い主の奥さんがご主人と公園にいた3匹の猫の話しをしていた。 「あなた、公園に3匹の仔猫がいたでしょ。一番お利口だった黒猫が車に跳ねられて死んだらしいわ」 「最初、黒猫を飼おうかと思ったけどーーガンちゃんが1匹で可哀想なんで、ガンちゃんをもらったね」 飼い主のご主人と奥さんは、黒猫の死を悲しんで泣きました。 (3匹の意地悪猫の中では、一番優しかったな。) 俺は、3匹のことなど、俺が生きる上でかえってじゃまだった。 別に悲しくはなかった。 暫くして、白猫がまた迷って近くでうずくまっていた。 少し小心者の俺は、なかなか気持ちを告げられずにいた。 グズグズしていると、また白猫の飼い主に連れて行かれてしまった。 何度か白猫をナンパしようとした。 相手にその気が無いようで上手く行かなかった。 次の年、夏が終わるころ、東北からキャットフードとお金が送られて来ました。 公園にいた浮浪者風の人が、工事現場で転落して死んだらしい。 俺は悲しくはなかった。 浮浪者風の人に興味なかったから。 飼い主は、可哀想な浮浪者風の人が公園にいた時を思い出して泣いていました。 俺の白猫への思いは続いていた。 それから長い時間が過ぎ、若かった白猫もいつもの元気がなくなっていた。 やっと僕に心を開いてくれて、二匹寄り添って玄関の周り10mを歩いてくれた。 俺は毎日毎日、白猫と一緒に散歩した。 白猫は俺と夫婦になっていいと言ってくれた。 いままで1年以内に死んでいたから、俺は結婚するのが初めてだった。 やがて俺と白猫にも子供ができた。 かわいい子猫たちの毛色は、俺に似た白黒茶のカラフル・ラインが4匹、白猫が2匹。 人間のいう血統書で行くとみんなミックス種になる。 俺も白猫も初めての子供だったので、一緒にかわいがってやった。 乳離れした子猫たちは、立派な家ネコとして新しい飼い主に貰われていった。 それからまた年月が過ぎ、白猫は少し足取りが危なしくなってきた。 体の具合が悪そうだった。 俺との散歩にも出てこなくなり、1週間経ったころ白猫は永い眠りについた。 俺は初めて悲しみというのがわかった。 何日も何日も泣いた。 涙が溢れ家中が水浸しになって、お風呂の湯船に入れられたがお風呂も俺の涙で一杯になった。 悲しみのあまり、俺は餌が食べられ無くなった。 飼い主は街じゅうの、どうぶつ病院に連れて行ったけど、どうすることもできなかった。 そうこうするうちに俺は、死んでしまいました。 飼い主は俺の死をたいそう悲しんで、実家の庭に小さなお墓を作ってくれた。 お墓には飼い主からひと束花が添えられていた。 飼い主の奥さんのたっての希望で、白猫の遺体もお墓に入れてくれ、白猫の飼い主もお参りに来てくた。 大好きな白猫と一緒に眠れて俺はは幸せだった。 俺は二度と生き返ることはなかった。 (俺は移民惑星ジョウモンのアマテラス教団で特殊遺伝子治療を受けていた。 そうだ。もともと甦り出来るんだった。 オオミカミとなる少女の言霊で生き返れると思ったけど、よく考えると自分の力だった。 唯一の弱点は方向音痴。 そのお陰で何度も死んでしまった。 白猫には悪いけど、もう一度冒険したいな。)