介護日記・施設拡大中

介護日記・施設拡大中 投稿私小説

ガンちゃんの人生相談

俺の名前は『ガーフィールド』。 「可愛いガンちゃん」 人間は気安く、そう呼ぶ。 「なれなれしいんだよ。俺を誰だと思ってんだーー」 まだ公園のノラ猫で、名前が無かった頃。 たまにこんな事があった。 3匹の先輩猫と陽だまりで休んでると、話しかけてくる猫好きがいる。 いつもここを覗きに来る、お兄さん。サバ缶を持ってきてくれるので、 俺は相談に乗ってあげることにした。 仕事の愚痴とか彼女ができないとかーーー。 俺は適当に聞き流し、にゃあにゃあ答えているだけだが、それで気が済むらしい。 しかし、今日はちがった。 「なあ、公園君、俺は格好いいよな?」 あ、公園君はお兄さんが勝手に俺につけたあだ名。 「にゃああ」 人間界ではどうか知らないが、サバ缶をくれるお兄さんは、 猫界では気前がいい格好いい男だと思う。 「どこかに、僕のササイな欠点なんか気にしないでつきあってくれる、 美人で清純ですなおな彼女が、いるよな?」 「にゃあにゃあ」 さあ。 人間の世には赤い糸というものがあって、誰かとつながっているって聞くが、 それが美人で清純ですなおかどうかまでは俺には解らない。 でも、お兄さんが深刻そうに見えたので、俺は頭をお兄さんの手にこすりつけて、 よしよしされてやった。 「些細なーーーそう、ササイな欠点だ。男は中身だよな!」 「にゃあにゃあ」 あまりに酷い外見で、見た目ではじかれるような事があれば、違うだろうーーー??。 猫だって、匂いの相性だけで相手を決めてると思ったら大間違いだ。 よく動けそうで元気そうな猫や、ぜい肉のついてない均整のとれた猫はとっても綺麗でほれぼれする。 外見はやっぱり大事だ。 しかしお兄さん、自分でも自分はかっこいいと言っているのに、どこかに欠点があるんじゃない? 「公園君に言っても解らないよな。あ、お前、捨てられるなんて、ついてないしねーーーー」 お兄さんは俺の前足を持ち上げ万歳させた。 アンフェア(ついてない)だって?何を言ってるのだろう。 それは殺人事件の被害者に使うことばだ。 俺はラッキーだ。 完全なる自己完結の世界に生きている。 他人にどう思われるかとか、恋人が出来るかとか些末な問題を超越しているのだ。 失礼な。 だいたい、生き方の問題なんだ。 愛してるとか、言葉で伝えなければ、誰にも伝わらない。 手紙だって、出さなければ相手に届かない。 結婚もだよ、婚姻届けださないと成立しない。 お兄さん、要は行動しろってことだ。 ラジオの人生相談も、結論はそんなところだろ。 「にゃあ」 俺は、お兄さんのほっぺたをなめた。 「わかった。わかった。じゃあ、いくよ。守るものがない猫はいいよな」 お兄さんはそうつぶやいて去って行った。 何だったのか? お腹もいっぱいになったので、俺は昼寝することにする。 俺はお兄さんのとの事は、直ぐに忘れた。興味なかったから。 おやすみなさい。

 

【梅雨の体調管理】3つの大事な注意点!

 

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梅雨は、一年のうちでも特に体調を崩しやすいシーズンです。
よく言われる食中毒以外にも、さまざまな不調が発生します。
今回は、そうした梅雨の時期の体調管理のポイントについて調べていきたいと思います。
それでは、早速見て行きましょう。

梅雨時の疲れやすさは温度調整で!

梅雨の時期に何故か疲れやすくなるという方は多いのではないでしょうか。

その原因としては、梅雨は低気圧が発達しやすいため、人間の体が余分なエネルギー消費を
抑えようと副交感神経を活発化させるため、身体を休めようという信号が発せられることで
「だるさ」を発生し、動きが鈍くなってしまうというものがあります。

そのため、この対策としては体温を常に高めに管理しておくというのが重要となってきます。

寒いと感じた時には上に一枚上着を羽織る、布団に毛布を一枚重ねて寝るなどの工夫をしましょう。
また、入浴時にはゆっくりと時間をかけてお湯に浸かるというのも重要です。


食中毒に気を付けましょう


梅雨の時期の湿気は細菌にとっては絶好の増殖機会となります。ですので、梅雨場は食中毒が非常に発生しやすいのです。

カンピロバクター黄色ブドウ球菌サルモネラ菌、O‐157などの大腸菌などさまざまな細菌類が食中毒を発生させます。

対策としては、まずはしっかりと手洗い、除菌をするということが重要です。
できれば食器類や食器を洗うためのスポンジ、さらに多くの人が触る便器やドアノブなどにもアルコールスプレーなどを使って
除菌するようにしましょう。

また、生ものを食べるのはなるべく控え、しっかりと加熱処理ということももちろん重要です。
また、意外と忘れられがちなのが食材を低温で保存するということです。低温、密閉を心がけて食材保存をするようにしましょう。


水虫の発生も・・・


梅雨の時期に多い体調トラブルとして忘れてはならないのが水虫ですね。
水虫の予防としては、毎日同じ靴や靴下を履かないようにする。
靴が湿っている場合にはしっかりと除湿するというのが何よりも大事です。

また、もし水虫になってしまった場合、多くの水虫は市販の塗り薬や飲み薬で治すことが出来ますが、
表面上治ったように見えても角質層の奥で菌が生き残っている場合があるので、症状が収まってからも
一ヶ月間程度は薬を使用し続けることが再発防止の秘訣です。


いかがでしたか?これらのポイントを参考して、体調管理をしっかりとして辛い梅雨の時期を元気に乗り切っていきましょう。

The縄文

(※この物語は全てフィクションです)

A.C.2117.11.1 ガイア(地球)

「Happy birthday Hiroki ! 」 徹夜明けで、朦朧とした意識にジュリアの声が響く。 「おはようジュリア。覚えていてくれたんだね、ありがとう。!!」 広紀とジュリアは恋人同士で、大学院の助手と学生。研究室でジュリアと逢うのは、至福のひと時だった。 北東大学は、日本考古学会の最高峰に位置付けられ、縄文研究の膨大な資料を保管している。 広紀は優秀さが認められ、その考古学研究室に勤務していた。 この100年の間に、古代史の常識は大きく塗り替わっていた。約2万年~1万年前に高度な文明が栄えていたことも定説となっている。 これも「神々の指紋」などが指摘した、世界のオーパーツ研究成果であった。 縄文時代は高度な文明を構築していたが、環境変動に伴い縄文人はほぼ全滅し、新たに弥生人が日本の歴史を作っていく。 広紀のゼミ「The縄文 講座」に、ジュリアは必ず出席する。 恋人と同じ空間を共有したいという乙女心からだが、その独創的な分析と推測による大胆な理論に、とても魅かれていたからだった。

B.C.12123.12.1(約1万4千年前) ジョウモン歴 百二十四年十四月一日 晴 移民惑星ジョウモン

雨季に入ってからはずっとこの天気だ。 湿度のあるじっとりした空気が体中にまとわりつく。 天を仰いでいたタケルは、ゆっくりと今から突入しようとするアマテラス教団の敷地前に立ちはだかる大きな門に眼を下ろし、睨みつけた。 集中しなければならない。 高度な遺伝子操作により、新たな神となる少女を育てているアマテラス教団。 武装した教団の危険性を考えれば、今からの突入で命を落とす可能性もある。 タケルは防護服の上から左腕をつかみ、握り締めた。 しばらく鳴っていた電子カッターの音が途切れて、大きな金属音が鳴り響く。 大きな門が両側に開ききると、タケルは腕を振り下ろす。 そしてそれを合図に防護服を着込んだ攻撃部隊は一斉に敷地へとなだれ込んだーー。 産まれる前の遺伝子操作は公的保険によって惑星全域で無料に行われている。 人類が誕生した惑星ガイアより、磁力の影響が大きいジョウモンという移民惑星においては、遺伝子操作による細胞強化と基礎代謝活性化が生きていく上で重要な意味を持つ。 なだれ込む攻撃部隊に続きながら、タケルはいつもの様に祈った。 「天よ、私に力を」

ジョウモン暦 百十年十三月三十一日 晴れ

今年もあとわずかとなった。 ヤヨイ遺伝子治療を受けなくても、従来の精子卵子への遺伝子操作のみで我が星の環境に人間の体がなんとか適応できることが、はからずともこの問題の解決に対する動きの鈍さに繋がったといえるだろう。 しかし我が星とて従来の人間の体にとっては過酷な環境には違いない。 我々は惑星ガイアで育まれた人間の体の形、その再定義へと向かわねばならないだろう。 一方で惑星ガイアにある縄文政府がガイアへの惑星航行を規制する法案を可決していた。 理由は遺伝子汚染を防ぐ為だとか。 その法案の影には惑星ガイアに住む従来の人間達が抱く、ヤヨイ遺伝子治療を受けた者の身体能力への恐怖が見て取れる。 惑星ガイアでは未だに遺伝子操作に反対する者の方が多い。 そういう者達の多くは何千年も前の人間が言った、天地創造神話。遺伝子操作による人類滅亡の予言を未だに信じている。 馬鹿げたはなしだ。 ガイアという星では暮らしていけない程の寒冷化、だからこその惑星移住ではなかったのか。 そして惑星移住し、移民惑星の環境に適応する為の遺伝子治療だというのに。 ガイアの連中は未だに他の移民惑星がガイアと同じ環境条件であると思っているらしい。 だが、惑星政府が遺伝子治療の開発に成功したのもガイアの医療企業が内密に参加したおかげだ。 そして彼らは莫大な報酬を移民政府から受け取った。 その威力を持ってガイアの医療企業は、移民政府に、ガイア救済の圧力を加えていた。

ジョウモン暦 二百十四年十四月二日 移民惑星ジョウモン

戦闘は2日目を迎えていた。 タケルは着ている防護服をその場に脱ぎ捨てて、もう一度隙間に手を入れた。 少女はしっかりとその手を握り締めた。 タケルは全身の力を込めて、少女を引き上げた。 「大丈夫か?」 タケルは少女の肩を力強く握ると問いかけた。 少女はその目をじっと見つめ、そして頷いた。 タケルは少女の頭を撫でて微笑むと、彼女を背中に背負って走り始めた。 直後にすさまじい轟音が鳴り始め、タケルの駆けていく後ろから本格的な地下シェルターの崩落が始まる。 ガイア環境は、日々悪化していた。 ジョウモン政府はガイア医療企業からの再三の依頼にやっと重い腰を上げる。 氷河期化する環境に耐えられるヤヨイ遺伝子を実証する名目、いわば追い出す形で用済みのタケルをガイアへ派遣することにした。 責任感の強いタケルは、アマテラス教団の残党を弱体化させる為、オオミカミとなる少女も連れて行くこととする。 死の底にある祖国ガイア。 「救う為には自分が立ち上がらねば!」 タケルはそう思う。 北半球に人類文明が発達したが、そこは地軸変動により氷河に覆われようとしている。 寒冷化の影響を免れた南半球では、オゾン層が未発達で人類生存の条件を満たしていなかった。 人類が生き残れる場所は限られていた。 まさに、東北地方で栄えた縄文式高度文明は滅亡の危機である。

B.C.12124.10.1(1万4千年前) ガイア 縄文 東北地方

巨大宇宙母艦が人びとを乗せて、移民惑星ジョウモンへ出航しようとしていた。 外気温はメーターの最低値、氷点下50度を示し、計器は全てその機能を果たせなくなっている。 「フゥ~、寒い。皆んな出発だーー。遅れたら置いて行くぞ」 最後の宇宙母艦を見上げながら、村の長であるイザナギは声を張り上げた。 ツクシの地にはまだ水があり、植物も枯れずに残っているとのこと。 イザナギと1,000人余りの残された人々は、一縷の望みを繋ぎ1千キロの旅を始めた。 日本列島でも、高度文明化されているのは東北地方の一部のみ。10キロいくと高木に覆われた未開の地。 氷と化した岩、川が人々の歩みを阻んだ。 彼らを追いかけるように凍結した空気が、呼吸を塞ごうとしていた。 約一カ月かけて、ツクシの地にたどり着くことができた。村人は百人余りに減っていた。 「もはや、これまでか。皆々、よくついてきてくれた。食糧は尽き、体力は限界を迎えた。我は此処に死する。力ある者は、後を繋ぎ歩みを続けてくれ。」 イザナギはその地に突っ伏し再び起き上がることはなかった。

B.C.12125.11.10 ガイア 縄文

タケルと少女は、縄文の地に降り立つ。 母なる祖国は、見渡す限り凍りついた世界と成っていた。 「こ、これは」 タケルは変わり果てた祖国を見て言葉を失った。 「まだ残された人々はいます。 この目に見えます。さあ探しに行きましょう」 今まで、言葉を発することがなかった少女の口から、突然言葉が漏れた。 少女に誘われるまま、南を目指し移動を続ける。 人びとが、躓きながらまさに死者の行進のようになりながら歩いている。 宇宙船を降り、彼等の行く手を塞いだ。 「病み疲れし民に幸あれ!」 少女の声に人々は立ち止まり、一瞬気をとり直したかに見えた。 しかし、しばらくして、また重たい足を引きずりながら歩み始めた。 「足が、足の痛みがとれた。歩けるよ!」 父親らしき人に背負われていた男の子が、飛び降りて叫んだ。 縄文では忌み嫌う言葉を発すると、それが現実となるという『言霊』(ことだま)思想がある。 「少女が発する言葉は、言霊の力を持っているのではないか? もしかすると、本当に少女は神として祖国を救えるのでは? 」 「わたくしも、聴こえなかった右の耳が聞こえます」 イザナギの娘として幼い時から大切に育てられた美しい娘。 「名はなんと言う?」 タケルはその美しさに思わず尋ねた。 「オトタチバナヒメと申します」 娘は美しい顔立ちに備わった、透き通る瞳でタケルを見上げた。 夕闇迫るツクシの草むらに、ヒメとタケルの影が長く尾を引いて続いている。 「今夜はこの辺りで宿を設けることとしよう」 残された者で、一番の年輩者がシートを敷きはじめる。 「やっと寒さに震えること無く朝を迎えられそうだ」 夕食として獲った野ウサギを焼くため、まき床作りが始まった。 ヒメは少しためらいながらタケルの側に座り、移民惑星ジョウモンの話しを夢中になってきいていた。 ふたりには、微かな思いが芽生え始めていた。

A.C.2117.11.18 ガイア(地球)

「広紀、昨日の講義とても素晴らしかったわ!特に、弥生人宇宙旅行をしてたなんて」 「実は未だ公開情報じゃないけどね。先月、仙台市にある祠から、岩に刻まれたヒエログリフを発見したんだ。 そのヒエログリフの中に明らかに、宇宙服を着た人間と思われる絵があった。 オーパーツは月や火星でも発見されているから。 考古学も、今や宇宙考古学となっているんだよ! 若しかしたら人類は新たな世界を求めて、宇宙に旅立っていたのじゃないかって。ふと、思ったんだ」 「想像なのね!広紀さん1日遅れたけど、誕生祝いにお食事でもごちそうするわ」 ジュリアは、爽やかな顔で微笑んだ。

ガンちゃんの冒険

俺の名前は『ガーフィールド』。 「可愛いガンちゃん」 人間は気安く、そう呼ぶ。 「なれなれしいんだよ。俺を誰だと思ってんだーー」 ガーフィールドと言うのは猫が主人公の有名な映画に由来する。 なんとも誇らしい名前だ。 俺について少し説明すると、毛色は白黒茶が混じったカラフル・ライン。 人間のいう血統書から言うと、ミックス種。 映画のガーフィールドとはちょっと外見は異なるらしい。 雄猫でマンション8階で飼われている、列記とした家ネコ。 実は、俺は1万回生きていて『1万回生きたねこ』と呼ぶのが正しい。 今度でちょうど、縁起の良い1万回目にあたる。 日本で昭和という時代の時、飼い主さんに略歴を自慢した。 俺の事が童話になったようだ。 本は読んでないけど『100万回生きたねこ』という題名で、不朽の名作として何回も映画になったらしい。 俺にも印税分けていいんじゃない。サバ缶でいいけど

1万4千年前。 俺の最初の飼い主は、縄文時代の村おさだった。 いつも飲み水が少なく、その年も雨が降らなくて俺は干からびてしまった。 「もっと雨ごいをすればよかった」 村おさは俺のなきがらを抱えて一晩中泣いた。 お葬式には大勢の人が集まり、悲しんでくれた。 「今度生まれる時は幸せになってね」 一人の少女が祈ってくれた。 俺は少女の言霊(ことだま)の力で甦りが出来るようになった。 ある時、俺の飼い主はエジプトの王様だった。 俺はこの王様が大嫌いだった。 王様は国中から何万という国民を集め、ピラミッド建設をさせていた。 ちょうど王様の視察に連れていかれた俺は、誤ってピラミッドの石に押しつぶされてしまった。 「こんなことなら、視察に連れてこなければよかった」 王様は平たくなった俺の死骸を金の棺に入れて、泣き続けた。 国民は俺の死を悲しんで、しばらく仕事が出来ないほどだった。 失意の王様はピラミッド建設を止めて、国民を地方の家に帰してあげた。 それから長い年月が過ぎ、俺は豪華客船に乗る大富豪の飼い猫だった。 俺は傲慢な飼い主が嫌いだった。 ある時俺の第六感に、危険を知らせるメッセージが届いた。 俺は泳げなかったので、船が沈没して溺れて死んでしまった。 「豪華客船なんか乗せるんじゃなかった」 救命ボートで助かった大富豪は、海水でふやけた俺の死骸をミンクのコートに包み三日三晩泣いた。 家にたどり着いて、俺は立派なお墓に埋葬された。 その年は、バブルと言って人間にはとても良い年だった。 俺の飼い主も、不動産で儲かっていたらしい。 テーブルにはいつもグラスに注がれたブランデーがあった。 俺は度々そのブランデーを舐めた。 アル中になった俺は肝硬変で死んでしまった。 飼い主は俺の亡骸を見つめ泣いた。 「もうアルコールを飲むのはやめる」 悲しみの余り、家中のアルコールをみんな燃えないゴミに捨ててしまった。 ある時、俺は小さな公園の捨て猫だった。 そこには、先客の捨てネコが3匹がいて、俺より大きな猫で兄弟らしかった。 いつもは排水溝に隠れていたけど、近所の人が餌をくれるときだけエサ場に集まって来た。 持て余す位の量なのに、この3匹は意地悪で、俺が近づくとフアーと威嚇してきた。 「3対1じゃ負けるかもしれない」 危険を感じた俺は、食べ終わったのも見計らって、おこぼれにあずかった。 数日して浮浪者風な人が公園に居つくようになった。 浮浪者風の人は日中は暑い中、俺たち子猫と遊んでくれた。 優しい人で、3匹の兄弟猫が旅行バッグで爪磨ぎしても怒ることもなく、好きにさせていた。 ひとりぼっちなのを可哀想に思ったのだろう、 特に俺を可愛がってくれた。 翌月になると、俺と3匹の兄弟は引取先が見つかった。 浮浪者風の人も近所の親切な人が実家に電話して、旅費を送って貰った。 俺を引き取ってくれた奥さんが、ゆで卵とバナナ、途中の食事代の足しにお金を渡していた。 3匹の兄弟は、同じ飼い主に引き取ってもらった。 最初の夏、1階までセミ捕りに行って戻ってこれなくなったことがあって、その時は家族一同で俺を探してくれた。 その年の冬にも階段を下りた後、戻ろうとしたが階を間違えて、6階の網戸に引っかかって身動きが取れなくなった。 それ以来、防衛本能が働いて俺は下の階に降りることができなくなった。 玄関から5m以内をグルグル回った。 ある朝、飼い主の奥さんがいつものように玄関を開けてくれた。 5階に住む白猫は階を間違ったらしく、2つ先の玄関でうずくまっていた。 俺は白猫に恋をした。 声を掛けようか迷っているところ、飼い主の奥さんがフロントに電話したらしく管理人のおばさんに連れていかれた。 年が変わる頃、飼い主の奥さんがご主人と公園にいた3匹の猫の話しをしていた。 「あなた、公園に3匹の仔猫がいたでしょ。一番お利口だった黒猫が車に跳ねられて死んだらしいわ」 「最初、黒猫を飼おうかと思ったけどーーガンちゃんが1匹で可哀想なんで、ガンちゃんをもらったね」 飼い主のご主人と奥さんは、黒猫の死を悲しんで泣きました。 (3匹の意地悪猫の中では、一番優しかったな。) 俺は、3匹のことなど、俺が生きる上でかえってじゃまだった。 別に悲しくはなかった。 暫くして、白猫がまた迷って近くでうずくまっていた。 少し小心者の俺は、なかなか気持ちを告げられずにいた。 グズグズしていると、また白猫の飼い主に連れて行かれてしまった。 何度か白猫をナンパしようとした。 相手にその気が無いようで上手く行かなかった。 次の年、夏が終わるころ、東北からキャットフードとお金が送られて来ました。 公園にいた浮浪者風の人が、工事現場で転落して死んだらしい。 俺は悲しくはなかった。 浮浪者風の人に興味なかったから。 飼い主は、可哀想な浮浪者風の人が公園にいた時を思い出して泣いていました。 俺の白猫への思いは続いていた。 それから長い時間が過ぎ、若かった白猫もいつもの元気がなくなっていた。 やっと僕に心を開いてくれて、二匹寄り添って玄関の周り10mを歩いてくれた。 俺は毎日毎日、白猫と一緒に散歩した。 白猫は俺と夫婦になっていいと言ってくれた。 いままで1年以内に死んでいたから、俺は結婚するのが初めてだった。 やがて俺と白猫にも子供ができた。 かわいい子猫たちの毛色は、俺に似た白黒茶のカラフル・ラインが4匹、白猫が2匹。 人間のいう血統書で行くとみんなミックス種になる。 俺も白猫も初めての子供だったので、一緒にかわいがってやった。 乳離れした子猫たちは、立派な家ネコとして新しい飼い主に貰われていった。 それからまた年月が過ぎ、白猫は少し足取りが危なしくなってきた。 体の具合が悪そうだった。 俺との散歩にも出てこなくなり、1週間経ったころ白猫は永い眠りについた。 俺は初めて悲しみというのがわかった。 何日も何日も泣いた。 涙が溢れ家中が水浸しになって、お風呂の湯船に入れられたがお風呂も俺の涙で一杯になった。 悲しみのあまり、俺は餌が食べられ無くなった。 飼い主は街じゅうの、どうぶつ病院に連れて行ったけど、どうすることもできなかった。 そうこうするうちに俺は、死んでしまいました。 飼い主は俺の死をたいそう悲しんで、実家の庭に小さなお墓を作ってくれた。 お墓には飼い主からひと束花が添えられていた。 飼い主の奥さんのたっての希望で、白猫の遺体もお墓に入れてくれ、白猫の飼い主もお参りに来てくた。 大好きな白猫と一緒に眠れて俺はは幸せだった。 俺は二度と生き返ることはなかった。 (俺は移民惑星ジョウモンのアマテラス教団で特殊遺伝子治療を受けていた。 そうだ。もともと甦り出来るんだった。 オオミカミとなる少女の言霊で生き返れると思ったけど、よく考えると自分の力だった。 唯一の弱点は方向音痴。 そのお陰で何度も死んでしまった。 白猫には悪いけど、もう一度冒険したいな。)

ランカウイ ミステリー

9月28日 3:00

夜中の静けさの中で、緊急を知らせるひときわ大きなサイレンの音が近付いてくるのが分かった。 浅い眠りの中で外に出て確認したい気持ちはあるが、窓から入る虫の処理に負けて諦める、ランカウイ島に住む人の大半はそんな人たちだった。

9月27日 21:30

ナイフを持つ手が震えていた。 刃には目の前に突っ伏した男の血液が付いている。 町田清子はナイフをハンドバッグに入れた。 男の名は高広紀といった。清子の彼氏だった男だ。 『あなたの彼、浮気しているんじゃない?』 同僚の細木真紀からいわれた言葉だった。 清子とは別の女と楽しそうに高級レストランで食事をしていたらしい。 それまで広紀の浮気を感じたことはなかった。 しかし、よく考えてみれば思い当たる節はあった。 付き合いだした頃に比べ、濃密な時間は感じるけれど、出逢う回数は減った。 出掛ける場所がお金のかからない自然公園やお手軽なワニ園。 偶にクアタウンでのウインドウショッピング。 レストランでの食事は半年以上なかった。 メールや電話の回数が減り、御座なりな受け答えを感じる事もある。 清子は自分がモテる方ではない事を分かっている。 現に、30才過ぎて広紀が初めての彼氏だったからだ。 その彼氏を清子は殺してしまった。 『会って話がしたい』と広紀からメールが送られてきたのだ。 広紀と清子はマレーシアにあるランカウイ島の空港内旅行代理店とホテルに勤める、いわば都合の良い関係だった。 待ち合わせ場所は夜の自然公園、外灯はあっても薄暗い。 空港に勤める女性は20代の綺麗な人が多く、別れ話だ、捨てられる、と思った。 泣かれてもいいように、人気のない場所を広紀は選んだに違いない。 別れるくらいなら、広紀を殺して自分も死のう、そう決めて物陰に隠れ、広紀を待った。 正面からだと戸惑ってしまいそうだったから、背後から広紀を刺した。

9月27日 23:50

「どうしたのよこんな時間に?」 同僚の来訪に真紀の表情は驚きと、迷惑を混ぜたようだった。 無理もない日付が変わろうか、という時間だ。 「ちょっといいかな――」 真紀は何かを悟ったようで、清子を部屋に招き入れた。 清子がソファーに座って待っていると、真紀はコーヒーを淹れて持ってきてくれた。 「彼とケンカでもした?」 「真紀さぁ、前に広紀が浮気してるっていったよね?」 「えぇ?そんなこといったっけなぁ?覚えてないんだけど」 「いったよ――」 「分かった!それでケンカしちゃった?」 「――」 「ゴメンね、覚えてないけど謝るよ。広紀くんには私から説明するからさ」 「覚えてないかな――」 「飲もう!お酒でも飲んでさぁ」 「覚えてないかな――」 「明日、私から説明するからねぇ飲もうよ」 真紀は台所に消え、グラスを2つと、ボトルを持って戻ってきた。 しばらくすると、真紀は酔いが回ったようで、上機嫌になった。 無性に腹が立った。 清子は、真紀を星空が綺麗だ、とベランダに誘った。 ふらつきながら真紀はベランダに現われた。 「ほうんとだ きいーれい――」 星空を眺める真紀を、清子は背後に回り、しゃがんで真紀の両足を抱え、力一杯持ち上げた。 真紀は鉄棒で前転するように回転し、ベランダから落ちていった。 間もなく鈍い轟音がした。

 

9月27日 22:00

 

ランカウイ島の自然公園を生ぬるい風が吹き抜けていった。 清子の興奮状態だった拍動が安定していく。 「死にたくない--」 次は自分の番だ、と思った瞬間思わず口から出てしまった。 広紀の事は愛していた。愛しているから別れが怖くて殺してしまった。 だけど、いざ自分も死のう、と思った瞬間。死の恐怖に負けた自分がいる。 うつ伏せに倒れている広紀を仰向けにし、ポケットから携帯電話や財布を抜き取った。 身分を特定できない状態にして、物取りの犯行に見せよう。 単純な発想だった。 誰に目撃されるか分からない。迷っていられなかった。 薄いジャケットの胸ポケット膨らんでいる。 内ポケット? ボタンを外し膨らんだ場所を探った。 指先に固いモノが当る。 清子は内ポケットの中のモノを掴んだ。 箱? その刹那、清子は腕を掴まれた。広紀が生きていたのだ。 消えゆく意識の中で、コレだけは盗られたくない、と広紀の最後の抵抗なのか、握力は力強い。 「ひっ、広紀!」声が裏返ってしまった。 その瞬間、清子を掴む手が力を失って地面に落ちた。 広紀は穏やかな顔をしていた。 清子はリボンの付いた小さな箱に目を落した。 「指輪--」 リングの内側に刻印がある。 (2015.9.27 H to K)

 

 9月28日 10:00

「おい、きのうほんとに来なかったのか?」 病室のベッドに広紀は横になっている。 「ゴメン、クレームが起きちゃって」清子は上目遣いでいった。 「はぁ?オレ危うく死ぬところだったんだぜ!」 「ゴメン――」 「誰か知らないけど救急車呼んでくれたから生きてられんだ、でも、お前の声だと思ったんだけどなぁ――」 「まぁいぃじゃない、で、話しってなに?」 「そうそう、財布と携帯電話は盗まれたんだけど、コレだけは盗まれなかったんだよな」広紀は小さな箱を開けて見せた。 「イニシャルが入ってると売れないのかもな――」小さなダイヤモンドの指輪が輝いていた。 見るのは2度目だったが、嬉しかった。 「結婚しよう!」

 

ランカウイ島で日本人が殺されたのは、初めてでした。 世界遺産に登録され、日本人の観光客が急増しているランカウイ島。 この事件によりマレーシアの観光産業は大打撃を受けると思われます。 ランカウイ ミステリーの始まりです。

 

火星天気予報

モールのように空を覆う強化ガラスの天井から、壁をつたう雨がウロコのような模様を作っている。 今日の天気予定だと、この雨はあと10分ほど降り続くはずだ。 そう。天気予報ではなくて、天気予定。 (まさか数十年前の人間は、人類が火星に移住して、その星の天気まで操るようになるとは思わなかっただろうな)  

超大型ショッピングモールの隅にあるコーヒーショップの、そのまた隅で休憩しながら、広紀はそんな無駄なことを考えていた。

「あの、すいません!」  

 声をかけてきたのは、長く茶色の髪を後でキリリと結んだ同い年くらいの少女だった。 革風の、テカテカした赤の上着に黄色いミニスカという携帯屋の制服を着ている。 椎名と胸にネームプレートがついているから、そういう名前なのだろう。

「お客様、さきほどコレを落とされませんでしたか」  

手渡されたのは小さなミントタブレットのケースだった。 どうやらさっきカウンターでサイフを出した時にでも落としたらしい。

「ああ、どうも」とお礼を言うと、椎名は笑顔で立ち去りかけた。

「あ、そうだ。ついでにちょっといいかな」

「はい、なんでしょう?」

「あんた、携帯電話の店員さんでしょ? 少し聞きたいんだけどさ」  

そういって、広紀は自分の携帯を彼女に手渡した。

「この機種、地球とでも使える?」

「ええ、契約を変更すれば可能ですが、ーーお勧めしません」

「なんで?」

 「星間通話は一分あたり高いですよーー そのワリに、しゃべってから相手に声が届くまでタイムラグがあるんです。 それに、電磁波の影響で通話不能になることも結構あるし。 普通にEメールにしておいた方がいいと思いますよ」

「い、いや、それでも話したい」  

椎名はふっと微笑んだ。

「お客さん、近々地球に引っ越すコがいるのね。しかも、そのコのこと好きでしょ」

「お前、予知能力がある火星の原住民か?!」

「その顔見たら分かるって」  

いたずらっぽく笑う椎名は、お客様に敬語を使うことも忘れているようだった。 広紀と幼なじみの清子は、兄妹のように育った。 よくある話だ。 一人前に色気づいて、自分が清子の事を好きになっている事に気づいて。 でも、それを告げたらバカ話で笑いあうような関係が壊れてしまいそうで。 で、そうこうしているうちに父親の都合で清子が地球に行く事になって。 本当によくある話だ。

 

「ねえ、その子にもう告白したの?」

「いや、まだ」

(なんなんだこの女は。なれなれしいにもほどがある)  

そう思いながら、それでも答えてしまう自分は本当にお人好しだなと広紀は考えた。

「早くした方がいいわ。その子が地球に行ったら、もうめったに会えなくなっちゃうし。 なおさら言いづらくなると思うの」

 「ーーー」   そう。自分の性格上、多分そうだ。   清子は必死で新しい生活に慣れようとしている所なのに、変な事を言ってジャマをしてはいけないとか何とか、 それらしい言い訳を見つけだして、だらだら引き延ばして。 そして、地球で他の奴に取られないかハラハラしてーーー (うう、何だか死にたくなってきた)

「それに人生、何が起こるかわからないっていうでしょ?」

「なんだそりゃ」

「もしかしたら、これから家に帰る途中、あなたが車にひかれて死ぬかも知れないわよ。 その子の乗った宇宙船だって、地球に届く前に落ちるかも知れないしね」

「ええっ?」  

さすがに最後の言葉にはムッとして、広紀は椎名の顔をにらみつけた。

「もしそうなったら死ぬほど後悔しない?」  

意地の悪い笑みを浮かべていると思った彼女の顔は、意外にも真顔だった。 大きな茶色の瞳は、どこかすがるように揺れている。 ピンク色の唇は、キュッときつく閉じられていた。

(ああ、彼女も好きな奴がいたんだな)  

それこそ予知能力がある火星原住民ではないけれど、それが分かった。   病気か事故か知らないけれど、相手は手の届かない所へ行ってしまったのだろう。 地球や金星よりもっと遠くへ。椎名が伝えたい想いを言うより先に。  

「ね、わかったでしょ?」 とでも言いたそうに、椎名は微笑んだ。 目のはしにちょっと涙をためて。 広紀は携帯画面の隅に浮かんでいるデジタル時計に目をやった。そして、雨が降り続く空を見上げる。 「よし、わかった」

「え?」  

広紀は警察の手帳のように携帯を彼女に突き付けた。

「雨がやむまであと5分! あと5分であいつに告白してみせる。 晴れて恋人同士になったとたんに雨があがるんだ。悪くないだろ?」

「え? なんで急に」  

どういうわけか、それが椎名のためにもなる気がして。 広紀はそう宣言すると、震える指で携帯のボタンを押した。

 

 「あー、清子?もう地球行きの準備は終ったか?」

 『うん、もうほとんど出来たよ』  

聞きなれた、のほほんとした声。

「ホントかよ。忘れ物すんなよ? お前、昔修学旅行に行った時ーーー」  

清子はなんというか相変わらずの調子で。 なんというか、話していて心地いい。

(なんか、このままでもいいんじゃないか?)  

清子の話に笑いながら、広紀はいつの間にかそう考えていた。 想いなんて、今急いで伝えなくたって。それに何よりフられたら?  

視界の隅で、ちらりと自分の携帯の時間を確認するのが見えた。 もう、タイムアウトまで時間がない。   ドキッと広紀の胸が高鳴った。

(そうだ。今言わないと。これをきっかけにしないと、 きっといつまでたってもこの想いは――)

「あ、あのさ清子。いきなりで悪いんだけど、俺、お前の事がーー」  

予定通りに雨は止んだ。 そして、明るい太陽が雲からのぞく。

 「何というか、その、ご愁傷様です」  

突っ伏した背中に椎名が声をかけてきた。

「うるせー」  

広紀はもちろん大切だけど、好きな人は他にいる。 それが清子の答えだった。

「うっわー なんか罪悪感あるなあ。私よけいな事しちゃったかなあ」

「いいや、別にそんな事はねえよ。告白の後押ししてくれた事は感謝してるさ」  

その時、急に周りの客がざわめいて、広紀のため息をかき消した。

「虹だ!」  

椎名が指差した方向を見る。 ガラスの天井のむこうに横たわる、やわらかな弧。 ホログラムよりはかない色の帯が、空を彩っている。   虹だけは、天気予定表にはのらない。 いつ出るかわかる虹なんて、おもしろくもなんともないから。   告白の後の、虹。 結果が幸せな物なら絵になっただろうに。 このタイミングでは何かの嫌がらせとしか思えない。

「あと三十分で仕事終わるけどーーーその後何かおごろうか?」

「いや、いい。大体フられた直後にそんな気になれるか」

「ですよね~ でも、ほら、また好みのコが現れるかも知れないし」  

他人事のように、広紀は冷たい視線をむけた。  

今はまだ清子のことしか考えられそうにない。 まして清子以外の女の子を好きになるなんて。

(しかし、なんて一日だったんだ。ほんの数分間で椎名に会って清子にフられてーーー)

『人生、何が起こるかわからないっていうでしょ?』  

なぜか、椎名の言った言葉が頭に浮かんだ。

「そうそう。言い忘れてたけど、私のフルネームは、椎名 林檎」

「聞いてない」  

 

予定外にかかった空の虹は、まだ消えてはいない。

西暦2015年10月21日

西暦20151021日 丁度この日は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が、描いた輝かしい未来。 ここ数年、話す相手も無いのに、広紀は誰かに話しかけていた。 「もう20年以上前になるな。今でも昨日のことの様に、思い出すぜ。清子との約束を果たす為にーーー。完成したデロリアン型タイムマシンを起動するぜ」 中学二年生の秋、 19931115日。 「清子、東京の学校行っても、元気でやってけよ」 「うん。広紀も元気でね」 「俺達が、21歳になった時、またこの橋の上で会おうぜ」 「うーーーうん」 「じゃあさ、俺達の8年後の夢をタイムカプセルに閉まって埋めようぜ。8年後に会った時に開けて見るのはどうだ?」 「うん。ーーーいいよ」 「この紙に夢書こうぜ」 「うん」 俺の夢はーーー。 「この砂浜のこの木の所に埋めておこうぜ。8年後の今日、20011115日ここで会おう」 「うん」 それから清子は、父親の仕事の関係で、東京の学校へ転校していった。 俺達は、別に付き合ってるわけでもなく、ただの幼馴染。 でも俺は、清子に恋をしていた。 月日はたち、俺も21歳になった。 あれから一度も清子に会ってないし、連絡もしていなかった。 清子のやつ、8年前の約束ちゃんと覚えてるかな?彼氏できちゃったかな? 俺は、清子の事を一度も忘れたことはなかったし、今でも好きな気持ちは変わらない。

 いよいよ、明日約束の日だ。清子に会える。8年前の約束を、ずっと楽しみにしていた。 「もしかして広紀?」 後ろを振り返るとそこには、清子が立っていた。 「清子、8年たつのにあまり変わってないな」 「うーーうん。久しぶりだね」 「ちゃんと、約束覚えてたんだな」 「もちろんだよ。忘れたことなかったよ」 8年前の約束の橋の上で、清子に会った。 「じゃあ、早速タイムカプセル開けようぜ」 「本当に見るの?」 「当たり前だろ。何しにきたんだよ」 「会えただけでもいいじゃん」 「ばーか。俺は、どうしても清子に見せたいんだよ。俺の夢を」 「ーーー」 タイムカプセルを砂浜から出し、開けた。 「ちゃんとあるもんだな。清子のから見るか」 「ーーー」 紙を広げた。 「なんだよこれ!白紙じゃねか!」 「ーーー」 「なんで何も書いてないんだよ。 タイムカプセルなんてばからしいと思ってたのか? 俺の事ばかにしてたのかよ!」 俺は、久しぶりに清子に会ったというのに、怒鳴ってしまった。 8年後の今日、タイムカプセル開けて、白紙だったなんてーーー 「ごめんね、広紀ーーー。馬鹿にしてたわけじゃないよ」 「じゃあ、なんでだよ」 「私ね、私、8年後の自分がどうなってるか分かんなかったの」 「なんだよそれ」 「広紀にはずっと言えなかったんだけど、 小さい時から、心臓が弱かったの」 「なんだって!」 「お父さんの転勤で東京行ったのも嘘なんだ。 大きな病院で、いい環境で治療しないといけなかったの」 「そんなこと何も言ってなかったじゃないか。 それに、小さい頃から、ずっと一緒に遊んでたじゃないか。別に元気だったろ?」 「それは、広紀に心配かけたくないから、つらくなったら、 トイレに行ったり、なんとかしてごまかししてたんだよ」 「俺達、幼馴染じゃないのかよ!なんでも話してくれてもいいだろ。 今更そんなこと言われてもーーー」 俺は、だまってしまった。 気づいてやれなかった自分に、腹をたててたのかもしれない。 「今は、大丈夫なのか?」 「うーーーうん」 「そうか。じゃあ、俺の夢を見てくれよ」 紙をひろげて、広紀は見せようとした。 「ごめん、私、もう行かなくちゃ」 「行く?行くってどこへ?」 「会えて良かった。ありがと」 清子は、そう言うと消えてしまった。

「清子!」 俺は、叫んで気づいた。 なんだ、夢だったのか。 今までのことは、夢だったんだ。 ベッドの上でぼーっとしていた。 「え?」 二枚の紙を手にしていた。 「なんだよ、これ」 タイムカプセルの中身。 白紙の紙と、俺の夢が書いてある紙。 「なんでーーー。あれは夢だったのに、なんでーーー」 ドンドン。 「広紀、起きてる?」 母さんが、ドアを叩いて、部屋に入ってきた。 「なんだよ。勝手に入ってくるなよ」 「それが、今、町田さんの奥さんから電話があって、清子ちゃん覚えてるでしょ?」 「ああ」 「落ち着いて聞いてね。三年前に亡くなったそうよ」 「ーーーなんの冗談だよ!」 「冗談なんかじゃないわ」 「なんで、三年前の事で今頃、電話かかってきて、報告あるんだよ!」 「清子ちゃんの頼みみたいよ。 どうしても今日まで、連絡しないでって、強く頼まれたんですって」 「ーーー」 「清子ちゃんのご両親、今、元の家に帰ってきてるらしいの。 手紙があるらしいから、清子ちゃん家にいってらっしゃい」 俺は、まだなにがあったのか、分からなかった。 清子が死んだ?信じられない。

着替えて清子の家に向かった。 ピンポーン。 清子の家に着き、チャイムを鳴らす。 「はーい。広紀君、久しぶりね」 清子のお母さんが、ドアを開けながら、にこっと笑いながら言う。 「清子さんが亡くなったって本当ですか?」 「ーーーええ。清子から手紙預かってるの」 「俺に?」 「ええ。あの子の部屋の机の上にあるから、読んであげて」 「はい」 清子の部屋に行き、部屋を見渡す。 小さい頃から、何も変わってない部屋。 変わったと言えば、もう清子は、ここにはいないということーーー。 机の上の手紙を手に取った。 高 広紀様 この手紙を読んでるってことは、あれから8年が経ち、 今日は、1115日になったんだね。 あの時の、約束忘れたことなかったよ。 約束の橋に行きたい!でも私は、8年後にはもうーーー。 広紀、ずっと言えなかったことがあるの。 小さい頃から、心臓が弱くて、よく発作が起きていたの。 広紀に気づかれないように、ごまかすの大変だったんだ。 広紀には、余計な心配かけたくなかったから、言わなかったけど、 最後にどうしても伝えたくて、こうして手紙を書く事にしたの。 タイムカプセルの8年後の夢。 私は、白紙のまま中に入れてしまった。 もう生きてないことが、分かっていたから。 でももし、私が生きてたら、その紙には、 『広紀のお嫁さんになる』って書いてたよ。 だってね、私、広紀が初恋の人だったから。 ごめんねーーー。 ずっと隠していて。 広紀の夢はなんだったのかな? 叶うといいね。 広紀と過ごした、約十年間、本当に幸せだった。 ありがと。 広紀には、明るい未来があるから羨ましいな。 最後になるけど、約束守れなくてごめんね。 いままでありがと。 さようなら。                                               町田 清子

清子、まだおまえの夢も、俺の夢も叶えてないぜ。 だって、俺の夢は、『清子を幸せにすること』だったんだ。 あの夢は、現実だったのか? 俺に、会いに来てくれたのか? 俺は、その場に、座り込み、ずっと我慢していた涙を、流した。 ありがとう、清子。 でも、俺は、さよならは言わない。 さよなら言ったら、一生会えないから。 広紀は涙でグシャグシャな顔のまま、約束の橋を下り、 タイムカプセルが埋めてある木の根元まで来た。 そこは掘られた跡で、手紙はなかった。 清子とここで会ったのは夢なのか、現実だったのかは分からないけど、 俺の夢はまだ叶えられていない。 そして8年前の約束を。 俺は今から、タイムマシンを作る。 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、デロリアンが西暦20151021日の未来を変えた様に。 待ってろよ清子、お前と別れたあの日に帰り、助けに行くからな!!